競輪界のGⅠ最高峰レース「日本選手権競輪(ダービー)」が5月4~9日の6日間、4年ぶりに京王閣競輪場で開催される。歴史と格式、名誉とともに、年末のKEIRINグランプリ(GP)に次ぐ高額賞金(優勝6956万円)を巡る熱いバトル。松浦悠士(30=広島)郡司浩平(30=神奈川)平原康多(38=埼玉)らSS戦士に、地元の鈴木竜士(27=東京)をはじめ輪界最多162人の精鋭が集結する。6日にはトライアルを勝ち上がった7選手によるガールズコレクションも行われ、まさに日本最強を決める戦いになる。
鈴木竜士(27=東京)
「今年は、結果を出す」。そう言った鈴木の目には強い光が宿っていた。地元バンクで開催される最高峰のレース。GⅠを取るという言葉を、ただの放言に終わらせるわけにはいかない。
無理だとは思えなかった。今年1月の立川GⅢ。地元戦として迎えた一戦。GPを戦った直後の平原の背中に、鈴木は希望が見えていた。「GPに向けて仕上げた直後の平原さんと走って、ここまでいけばタイトルが取れるんだなと分かった」。常にタイトル争いを演じる先輩と共に戦い、番手を回ることで、確かに感じた。手が届く、と。
地元勢としてはただ1人、特選シード権を獲得した。「予選(1予)と特選からじゃ、勝ち上がるのには全然違いますからね」と表情を引き締める。優勝への第1関門はクリア。「結果を出す」の言葉を無駄にはしない。
山田英明(38=佐賀)
昨年は最後の最後で悲願のGP出走を逃す悔しさを味わった。それでも不屈の闘志でよみがえってくるのがこの男。今年もGⅠ優勝=GP出場を唯一の目標に掲げ、連日奮闘している。位置取りのうまさ、戦法の多彩さは輪界屈指。17年ダービーでGⅠ初の決勝進出(9着)を果たした京王閣で、歓喜の涙を流すか。
諸橋愛(43=新潟)
さばきで機動型をガードし、ゴール前では伸びてファンの期待に応える。関東屈指の追い込み屋が真価を示す。よりスピード化する競走形態に対応してきた。冬から春にかけて群馬や山梨でも乗り込み、同時に顔を合わせた関東の若手の脚力を分析。機動型と好連係へイメージも膨らむばかり。GⅠ初Vへ力が入る。
古性優作(30=大阪)
悲願のGⅠタイトル戴冠へ、まさに脂が乗っている。昨年は8月オールスター、11月競輪祭とGⅠで2度決勝に進出。今年に入っても、3月GⅡウィナーズカップで準優勝。位置取りの巧みさは、輪界でもトップクラスに成長した。15年にGⅠ初勝利をマークした舞台で、今度は悲願のGⅠ優勝の美酒に酔うか。
原田研太朗(30=徳島)
GⅠに最も近い選手と言われて久しい。近況は期待ほどの活躍はできていないが、昨年3月のウィナーズC(8着)同8月のオールスター(9着)で決勝に進み、7月地元小松島GⅢを制するなど随所で存在感は見せている。京王閣は15年ダービーで初のGⅠ決勝進出(9着)を果たした舞台。一発の魅力は十分だ。
稲川翔(36=大阪)
「強者の存在感」が戻ってきた。14年高松宮記念杯を制してタイトルホルダーの仲間入り。その後は相次ぐ落車で思った走りができない時期もあった。ただ、昨年は競輪祭の決勝3着など、強気な姿勢が成績にもつながっている。再度のGⅠ制覇に向けて準備は整った。古性優作との大阪タッグでVへと突き進む。
浅井康太(36=三重)
15年にGP初制覇を遂げた当所から完全復活を狙う。18年競輪祭以降はビッグタイトルから遠ざかっている。今年も1月岸和田(和歌山代替)、3月大垣の両GⅢ決勝で失格と、なかなか波に乗り切れずにいる。ただ、卓越したスピードとレースセンスは、誰にもまねができない。思い出の地で輝きを取り戻す。
寺崎浩平(27=福井)
史上初めて選手養成所を早期卒業した新鋭らしく、デビューからわずか1年4カ月で選手権に挑む。3月大垣ルーキーチャンピオンは落車に終わったが、初の番手回りでレースへの視野を広げ、その後は体のケアを見直した。松阪GⅡで見せた押さえや突っ張り先行は今後も別線を手こずらせる。活躍へ準備が進む。
新山響平(27=青森)
24年パリ五輪を目指す北日本の若きエース。2月全日本選抜でも準決で打鐘から先行。清水裕友―松浦悠士に3番手からまくられながらも小差の4着に粘った内容は光った。成績はともかく実力はタイトルレーサーに全く引けは取らない。16年競輪祭(9着)以来のGⅠ決勝進出はもちろん、優勝まで狙える存在だ。
ダービーのタイトルに魅せられた男たちの、6日間の激闘が始まる。
優勝争いの中心は松浦悠士だ。年頭から「ダービーを目標にしている」と公言。昨年8月のオールスターでは脇本雄太と約半周の壮絶なデッドヒートを制して優勝しており、ダービーも勝って、誰もが認める輪界最強を証明したい。今開催は脇本らナショナルチーム勢が競技専念のため出場を辞退。彼らと互角以上に戦える松浦は、優勝に最も近いといえる。
タッグを組むのは長州志士の清水裕友だ。松阪ウィナーズCでは松浦の仕掛けに乗って優勝。大会連覇に挑んだ今年2月川崎全日本選抜では、松浦が出来の良さを認めて前を託しており、信頼関係は堅固だ。2人はともに「前で走っても勝つ」という壮大な理想を掲げている。ダービー決勝で両者のマッチレース…そんなシーンが期待できる。
最強のオールラウンダー平原康多は「ダービーを取りたい」と言い続けてきた。GP以上に欲しいタイトルと言っても過言ではない。今年序盤の迫力ある自力戦には、多くの競輪ファンもうなったはず。そして、東京に移籍した鈴木竜士にとっては地元バンクでのGⅠ。埼京を軸とした関東結束で、中国コンビに立ち向かう。
南関ラインは結束力が武器。全日本選抜優勝の郡司浩平に、昨年GP覇者の和田健太郎のSS両者に加え、岩本俊介や根田空史といったハイレベルな機動型もそろった。
北日本勢は佐藤慎太郎と新SS守沢太志、グランドスラムに挑む山崎芳仁に渡辺一成といった、経験値の高いメンバーがそろっていることが魅力だ。近畿からはウィナーズC準Vの古性優作が、寺崎浩平を目標に悲願のタイトルを狙ってくる。中部は浅井康太の奮闘が鍵になりそう。九州勢は初タイトルに最も近い山田英明が、山崎賢人や再ブレーク中の北津留翼という大型大砲とともに頂点を目指す。
昨年はコロナ禍で中止となり、2年ぶりのダービー。興味の尽きない激戦になることは間違いない。
清水裕友(26=山口)
3月松阪GⅡで3度目のビッグ制覇を飾り、存在感も自信も取り戻した。力感を欠いた昨年夏場からフレームや乗車フォーム、調整法を見直し、動きが柔軟で鋭くなった。松浦悠士との呼吸もぴったりで、コンビプレーの威力はさらに増す。ダービーは19年大会で決勝2着になっており、目指すは優勝しかない。
平原康多(38=埼玉)
昨年は8年連続11度目のGP出場を果たした。しかし、GⅠタイトルは17年の全日本選抜を最後に遠ざかっている。今年は年始から立川、大宮とGⅢ連続V。2月GⅠ全日本選抜でも決勝進出と安定感を見せる。当所は昨年10月のGⅢを制するなど得意の舞台。自在に立ち回って、4年ぶりにタイトル奪取だ。
守沢太志(35=秋田)
昨年は賞金ランク9位でGP初出場。S班として迎えた今年は、GⅠ初戦の全日本選抜で決勝3着、続くウィナーズCも決勝進出と、高い安定感を誇っている。当所は17年5月のダービーで初めてGⅠの決勝に進んだ舞台。S班としての格も走るごとに出てきており、高い技術で鋭い差し足を披露する。
佐藤慎太郎(44=福島)
19年GPを制した追い込み日本一は、本領発揮へ抜かりなく備える。2月GⅠ全日本選抜から3月GⅡ松阪まで3場所続けて決勝を逃した。珍しく安定感を欠く近況に、松阪では直前のオーバーワークが敗因と自己診断。練習と調整を見直して、切れを増した先に、04年静岡の決勝2着を超える栄誉がある。
岩本俊介(36=千葉)
昨年は8月12月の地元松戸GⅢを連覇するなど優勝5度。今年も「調子が良くない」とぼやきながら、強烈なカマシで3月西武園Vと勢いはとどまるところを知らない。「中村浩士さんグループでの練習の成果」と仲間に感謝しつつ「奥さんの体調管理のおかげ」と付け加える愛妻家。初タイトルの可能性は十分だ。
和田健太郎(39=千葉)
昨年は11月の競輪祭でGP初出場を決めると、勢いそのままに約1カ月後のGPを鮮やかに制して一気に頂点に駆け上がった。その後やや調子を崩した時期もあったが、立て直しに成功。2月の全日本選抜も郡司浩平の2着に入り、役目はきっちり果たしている。GPは制したが、GⅠ優勝はまだない。ここが勝負か。
郡司浩平(30=神奈川)
昨年の競輪祭で悲願のGⅠ制覇を成し遂げると、地元川崎で行われた2月の全日本選抜も優勝。逃げて良し、まくって良し、さばいても飛び付いても超一流という輪界屈指のオールラウンダーだ。GP出場が決まっただけに今開催は南関勢のアシスト役に回る可能性もあるが、主役の1人であることに変わりはない。
女王児玉碧衣が力で圧倒する。1月別府のトライアルはナショナルチームの佐藤水菜をあっさりまくって優勝。3月の松阪ガールズケイリンコレクションでは2人目の100度目Vを達成した。ガールズGP3連覇の自信と実力は本物だ。新鮮な顔触れにはなったが、大舞台での実績と力強さは断然上位。強いて言えば、京王閣は過去3場所走って優勝がないが、GPを制する前の話。過去の苦い思い出を払拭(ふっしょく)する豪快スパートを放つ。
力勝負を挑むのは佐藤になりそうだ。別府では児玉の3着だったが、先行勝負に出た結果。世界を相手に戦うべく磨いた脚力で抵抗する。荒牧聖未、経験値が豊富な尾崎睦、そして細田愛未は、巧みな位置取りとうまさで上位争いに加わりたい。
伸び盛りなのは太田美穂と久米詩だろう。特に太田は先行まくりで白星を量産中。久米もフレッシュクイーンVで見せた勝負根性で、ひと泡吹かせたい。
太田美穂
ブレーク中の太田美穂が女王に力勝負を挑む。激戦区だった取手のトライアルで、石井貴子や高木真備らトップレーサー相手に先行で勝ち上がった力は本物だ。度重なる大けがで、一時は家族に復帰を止められたほど。それでも「私、まだ結果を残せていない」と説き伏せたことで今がある。果敢な攻めで初めての勲章を手に入れる。